「五階でお願いします」
また、声が聞こえました。
さっきよりも近い場所で。
「五階でお願いします」
女の人の声だけが、静かなエレベーター内に響き渡ります。
そしてその声は、徐々に私へと近づいてきました。
「五階でお願いします」
「五階でお願いします」
「五階でお願いします」
上手く息ができなくなり、心臓がバクバクと跳ねています。
心の中でうろ覚えのお経を唱え続けました。
南無妙法蓮華経。
南無阿弥陀仏。
「うえまでいっしょにいきましょう」
耳元で、生気の感じない声。
そこで私の意識は途切れました。
次に目が覚めると、そこには心配そうな顔をした男女がいます。
私は飛び起きました。
「お嬢さん、動かない方がいいわよ」
「そうだ、熱中症かもしれない……今救急車を呼んだからね」
その人達が言うには、私はエレベーターの中で気を失って倒れていたそうです。
たった一人で。
辺りを見渡しましたが、そこにはもうあの白い服の女の人はいませんでした。
やって来た救急車に運ばれる間際、空っぽのエレベーターのドアが閉まったのが見えました。
私は息を呑み、目を見開きます。
確かに閉まる前まで、誰も中にいなかったのに。
そこには、白い服の女の人が佇んでいました。
彼女を乗せたエレベーターはゆっくりと上に上昇していき、やがて見えなくなりました。



