白手 憂怜の怖いお手紙


雨に足止めを食らってから、およそ5分が経ちました。

未だ止む気配すら見せない雨を、肌寒くなってきたトンネルから見ています。

すると、辺りに小さな声が響きました。


「あの」


たった二文字の声を発したのは誰でもない、長袖ワンピースの女の人でした。

初めて聞いた彼女の声には覇気を感じず、ゾクリと体中に鳥肌が立ったのを覚えています。


「あ……はい、なんでしょうか」


ぎこちなく振り返り、思わず返事をしました。

すると、女の人は僕に近寄り……スッとトンネルの向こうの空を指差したんです。


「雨、好き?」


うつむいたままの彼女の顔は、全く見えません。

不審に思いながらも、僕は適当に答えます。


「雨は……あまり好きではないですかね……」


そう言うと、彼女が弾かれたように顔を上げました。

僕のノドの奥から小さく悲鳴が上がります。

女の人は、笑っていました。

充血した黒い目を四方八方にギョロギョロと動かしながら。

上がった口角の隙間からは真っ黒な歯が並んでいるのが見えて、それとは正反対に鮮やかな、唇を彩る赤が強く印象に残っています。


「私も雨嫌いなの、痛かったから」


女の人の手が、僕へと伸びてきて……悲鳴を上げながらトンネルの外に飛び出しました。

その瞬間、けたたましい音が辺りに響きます。