王太子妃になりそこねた公爵令嬢は、我儘をつき通す

寝室に行けば、予想通り布団にくるまっていじけている夫がいた。
娘のクラリッサがアリス先生ことアリステア・ペンフォードに会ってから、ほぼ日課のように見る姿。

クラリッサには影がついている。
筆頭公爵家の娘であり、元王女の自分の娘なのだ、当然のこと。
だが、クラリッサ自身は影の存在を知らない。
一生知らせる気はない。
そんな存在に気づかずに生きていく方がずっといい。

「……だからあの男を排除すべきだと言った」

布団の中から夫が訴えてきた。

「まぁ、なんの罪もないのに?」
「たぶらかしている!!」
「クラリッサが一方的に振り回していると、そういう報告だったはずですけれど?」

影から常に報告を受けている。
学園で問題なく過ごせているか、危険はないか。
さすがに会話の内容までは報告させていない。
けれど、それが良くなかったのか。
夫と息子は勝手に想像を働かせて、アリステア・ペンフォードを敵視している。

(……まぁ、わたくしもとても気になっていますけれど)

それでも影の報告を聞く限りでは、彼はきちんと距離を保ってクラリッサに接している。どちらかというと、クラリッサの方が距離感を誤っている。

(過保護にしすぎたのかしら?)

親族以外の異性との交流はほぼない。
そこで遅まきながら恋愛小説を読ませているのだが、どうにもそっちへの反応を示さない。

クラリッサが彼に向けている感情は何なのか?
影からの報告を受けるたびについつい考えてしまう。

(……それにしても)

小説を読ませた効果を発揮した相手が、まさかの夫と息子。
あれには笑わされた。
慌てて口元を扇で隠したが、誰もいなかったら一人で大笑いしていただろう。

「……許さん」

ベッドの中で唸る夫。
昔から嫉妬深いところがある。

「わたくしも許しませんわ」

寝室のソファに腰を掛け、夫を見据える。
がばりと起き上がった夫は賛同を得られたと勘違いしたらしい。
嬉しそうにこちらにすり寄ってくる。

「そうだろう。そうだろう。こうなったら公爵家の力で」
「……その場合は貴方と離縁ですわね?クラリッサを連れてペンフォード家に行こうかしら?」

にっこりと微笑んで見せる。

愕然とした夫の顔。

(……クラリッサは夫に似たのかしら?)

直情的で単純で。

だからこそ、可愛くて愛おしい。

「……いや……あの……」

勢いを失った夫に手を伸ばす。

「わたくしはまだ公爵夫人でいたいですわ?」

そう告げれば、コクコクと夫は頷いた。

「では、クラリッサの夢を潰したりはしませんわね?」
「…………」
「あなた?」
「……う……う……う」

諦めが悪いところもクラリッサそっくりだ。
嫌だという気持ちが見えている。
けれど、可愛い娘の夢を壊させはしない。

「いいですわね?」

もう一度念を押せば、小さな声で「……うん」と返ってきた。