笑顔の仮面は君の前だけ壊れる

会議が終わると、外はすっかり暗くなっていた。

「白石さん。」

朝比奈さんが私の隣まで歩いてくる。

「今日は駅まで送るよ。」

「大丈夫です。一人で帰れますから。」

笑顔で断ると、彼は少しだけ寂しそうに笑った。

「そう? 無理はしないでね。」

その言葉に罪悪感を覚えながら、一人で会社を出た。

帰宅すると、スマートフォンが震えた。

知らない番号からのメッセージだった。

『無事に着いてよかった。』

一瞬、息が止まる。

送り主の名前はない。

私は慌てて画面を閉じた。

そのとき、玄関のチャイムが鳴る。

恐る恐るドアスコープを覗くと、誰もいない。

首をかしげながらドアを開けると、小さな紙袋だけが置かれていた。

中には、昼休みに私が「かわいい」と眺めていただけの本屋のしおり。

そして、一枚のメモ。

『君には、この花が似合うと思った。』

思わず辺りを見回す。

人影はない。

どうして……。

あのしおりを見ていたことを、誰も知らないはずなのに。

私は震える手でメモを握りしめた。

その頃、会社の窓から静かに夜の街を見つめる人影があった。

「ちゃんと届いてよかった。」

優しい笑顔は、誰にも見られることなく、静かに闇へ溶けていった。