笑顔の仮面は君の前だけ壊れる

第27章 忘れられた社員

昼休み。

私は一人で資料室へ向かった。

どうしても、あの写真の男性が気になって仕方がなかった。

古い社員名簿を一冊ずつ確認していく。

2020年。

2021年。

2022年。

どの名簿にも、その男性の名前はない。

「そんなはず……。」

写真には確かに写っていた。

なのに、記録だけが存在しない。

その時だった。

「何を探しているの?」

振り返ると、美咲が立っていた。

「実は……。」

私はこれまでの出来事をすべて話した。

美咲は黙って聞いていたが、最後に小さくつぶやいた。

「私……思い出したかもしれない。」

「え?」

「昔、総務にいた人から聞いたことがあるの。」

美咲は記憶をたどるように目を閉じた。

「五年前、この会社には”存在しない社員”がいるって。」

「存在しない……?」

「名前も記録も消された人。」

その言葉を聞いた瞬間、背後で本棚が大きく揺れた。

ガタンッ!

思わず振り返る。

一冊の古いファイルが床へ落ちていた。

拾い上げると、表紙にはこう書かれている。

『社内事故報告書 閲覧禁止』

私はゆっくりとページを開いた。

一枚目は空白。

二枚目も空白。

しかし、一番最後のページだけ、文字が残されていた。

『被害者 一名』

『氏名 ■■■■』

名前だけが黒く塗りつぶされている。

さらに下には、赤いインクで書き加えられた一文。

『この事故を忘れた者から、また同じことが繰り返される。』

その瞬間、資料室の照明が一斉に消えた。

暗闇の中で、誰かが私のすぐ後ろを通り過ぎる気配がする。

「思い出した?」

耳元で、静かな声が聞こえた。

振り向く。

そこには誰もいない。

けれど床には、一枚の社員証が落ちていた。

今度は写真も名前も消されていない。

そこに書かれていた名前を見た私は、息をのんだ。

その名前は――

朝比奈 悠真。