笑顔の仮面は君の前だけ壊れる

第11章 封印された名前

翌日。

私は資料を探すため、資料室の古いキャビネットを開けていた。

「去年の取引先一覧……。」

何冊ものファイルをめくっていると、一冊だけ表紙の色が違うファイルが目に入る。

『退職者記録』

興味本位で開いたわけではない。

ただ、手が止まらなかった。

ページをめくると、見覚えのある名前が並んでいる。

その中に、一枚だけ付箋が貼られていた。

『佐伯 真奈』

美咲が話していた、突然会社を辞めた女性社員だった。

退職理由の欄には、

「一身上の都合」

それだけしか書かれていない。

「何を見てるの?」

突然後ろから声がして、私は思わずファイルを閉じた。

振り返ると、神崎主任が立っていた。

「す、すみません。」

神崎主任は無表情のままファイルを手に取る。

そして、小さくため息をついた。

「その人のことは忘れた方がいい。」

「でも……。」

「知れば知るほど、君も巻き込まれる。」

低い声だった。

脅しているようには聞こえない。

むしろ、忠告しているようだった。

そのとき、廊下の向こうから朝比奈さんが歩いてくる。

神崎主任は一瞬だけ朝比奈さんを見つめると、静かにファイルを棚へ戻した。

「白石さん。」

朝比奈さんはいつもの笑顔を浮かべている。

「昼、一緒にどう?」

その何気ない誘いに返事をしようとした瞬間、私のスマートフォンが震えた。

差出人不明。

届いたメッセージは、たった一行だった。

『次に消えるのは、あなた。』

私はスマートフォンを握りしめたまま、その場から動けなくなった。