孤独な先輩と空しか撮れない私の話。

夏休みが始まって数日後、私は公園で空を眺めていた。
滑り台で鬼ごっこをして遊ぶ子供達から距離を取って、カメラを構える。
焼け付くような青を背景に真白の立体的な入道雲。
2つのコントラストが美しく鮮明に映る。
いい感じかな。
シャッターを押そうと、ボタンに触れたら、手汗で滑った。
入道雲にスピード線が加わり、小刻みに揺れている。
陽炎みたい。
「ま、これもいいか」
帽子を被り直して、私は無邪気な声が飛び交う公園を後にした。

明日から、日光へ1泊2日の撮影旅行。
家に帰ってからの私はリュックをひっくり返して、荷物の確認とカメラの点検をしていた。
雨、降らないといいな。
植物園の時に練習してある程度、雨でもピントがずれないようには撮れるようになったけど、それでも私は青い空の方がいい。
それに、傘を持ちながら撮るのは面倒臭い。

翌日、私達はバスを乗り継いで日光に向かった。
青白い稜線とその後ろに聳え立つ入道雲。
青々と生い茂る草花。
まあまあいい天気かな。
最初の行き先は華厳ノ滝。
水飛沫と光のマッチを捉えることが今日のポイント。
滝の水は、流水音を立てながら、岩の間に溶けていく。
岩の架け橋が薄く浮かび上がったところで、私はシャッターを切った。
岩の狭間から投げ込まれる白い滝の下に3色程度の虹。
それを覆い囲む入道雲。
岩に当たった飛沫がこちらへ跳ね返ってきて、咄嗟に私はカメラを遮った。
「レインカバー、つけないと濡れるよ」
部長さんが予備のレインカバーを渡してくれて、私は慎重にそれを取り付けた。
「ありがとうございます」
「沙羅。ここ心霊スポットらしいぞ」
一条先輩が部長さんを怖がらせるように、お化けのマネをして歩み寄っていく。
「ヒッ」
一歩足を引いて、軽く滑り落ちそうになる。
強そうな見た目なのに、本当に苦手みたいだ。
「ビビらせるな」
拳を振り回して、先輩を追いかけ回していく。
器用な身の躱しで先輩は逃げ切り、部長さんは息を切らしながらそれを追いかけていく。
その光景を見ていると、胸の奥が少しざわついた。
何が、気に障ったとは言えない。
たださっきまで自分の隣にいたはずの先輩の笑い声が遠くへ引き離されていくような感じ。
空を見上げた。
さっきまで白かった雲が、いつの間には灰色を帯びている。
光の角度が少し変わっただけなのに、世界が冷たくなったように見えた。
仲、いいな。
そう思った瞬間、胸の奥に小さな棘が刺さった。
部長と副部長なんだから、別に仲がいいのは当たり前。
なのに、どうして胸が締め付けられるのだろう。
自分でもよく分からない。
滝の水音が遠く大きく響く。
その音に紛れて、胸のざわめきも消えていけばいいのに。
けれど流れ落ちる水とは違って私の濁りはどこにも届かず静かに沈殿していくばかりだった。