孤独な先輩と空しか撮れない私の話。

「冬の撮影研修ってことで、イルミネーション。3年もいるから、自由参加だけど、行ける人?」
冬休みが始まって3日後、部長さんからスマホから、連絡が入っていた。
イルミネーション。
人工的なものはあまり撮ったことがないから、面白そうだな。
「行けます」
2年生の先輩のあとに続いて、送信。
そういえば、先輩は来るのかな。
あれから、全く顔を見ていないけれど、受験で忙しいのだろうか。
「俺も行く」
先輩から。
「世那、受験ヤバいって言ってたじゃん。大丈夫?」
「大丈夫。たまには息抜きも必要」
可愛いスタンプを添えて送られてくる。
「OK。じゃあ、全員で行きますか」
日程は2日後のクリスマス、15時集まり。
小型のブロアーの電源ボタンを押して、カメラに付着した塵を軽く払った。

「イエーイ。凪ちゃん」
待ち合わせ場所に着くと、先輩が手を振って待っていた。
恍惚と輝く色とりどりの光の側で、人々は表情をコロコロと変えている。
ハイタッチの代わりに、ストラップを持ち上げて、カメラを軽くぶつけた。
重みが身体に直に伝わってきて、少し仰け反る。
「よし。みんな集まったね。行くよ!」
人とすれ違うたびに、香水や汗の匂いが一瞬だけ混ざって消える。
あの木のイルミネーション、綺麗だな。
カメラを構えようと、立ち止まると、後ろからの圧で自然と押し出された。
人の波が絶え間なく押し寄せ、足を止めることすら許してくれない。
金色に染まった頭が人の背中に遮られて、遠くなっていく。
目の前の景色が人の頭で途切れて、焦りがじわりと広がっていく。
子どもの笑い声と大人の話し声が混ざり、一つの大きな音の塊になる。
人の多さに圧倒されて、呼吸が浅くなっていくのを自覚する。
「凪ちゃん。はぐれるよ」
誰かのスマホの画面がふっと目の前に上がり、光が瞬いた。
カメラのストラップではなく、腕を掴んで、先輩は私を引っ張り出す。
「置いてかれちゃうよ」
ざわめきの中で、隣にいる相手の声だけがはっきり届く。
触れられた指先から小さな電流が弾ける。
胸の奥で小さく、けれど確かに新たなリズムが刻まれ始めた。
鼓動が早まるたび、温かい波が全身を駆け巡る。
指先まで熱が届いて、先輩に掴まれている指が汗ばんでいく。
藍色の光に染まる木の幹は、闇の奥深くへ静かに溶けていった。