午前零時、夜に恋をした。

キーンコーンカーンコーン……。

お昼休みのチャイムが鳴った瞬間、私はお弁当を机に突っ込んだまま、
逃げ出したい足を必死に動かして屋上へと続く階段を上っていた

錆びついた重い鉄の扉を恐る恐る開けると、冬の冷たい風と一緒に、
吸い込まれそうな青空が広がった

フェンスに背中を預けて、空を隠すように立っていたのは

――夜凪くんだ。

「……あ、あの、夜凪くん。呼び出して、何かな……?」

声が震えてしまうのを隠せなかった
学校一の不良が、ゆっくりとこちらを振り返る

彼はぶっきらぼうにポケットから手を取り出すと、
私の目の前に何かを突き出してきた

「……これ。この前のお礼」

「えっ?」

私のてのひらにぽんと落とされたのは、
綺麗な青色をしたサイダー味の棒付きキャンディーだった

昨日の夜、私が押し付けたアイスのお返し
一匹狼の不良からキャンディーをもらうなんて思わなくて、私は目を丸くした

「ありがと……。あの、夜凪くんは、このあとの授業……サボるの?」

恐る恐る聞いてみると、彼はめんどくさそうに頭をかいた

「あぁ、サボる。教室、うるさくて嫌いだから」

私は手の中のキャンディーをぎゅっと握りしめて、自分の名前を口にした。

「私は、1年3組の千歳天音、よ、よろしくね」

私がそう言うと、
彼は一瞬驚いたように目を見開いた
それから、私の言葉をなぞるように小さく呟く

「千歳、あまね……。ちとせあまね、か」

彼はふっと、意地悪そうに、でもすごく綺麗に口元を緩めた

「ちとせあまねって……千歳飴みたいだな」

「えっ!? ち、違うよ!」

「よし、決まり笑。お前、今日から『千歳飴』な」

楽しそうに笑う彼の顔を、私は呆然と見つめてしまった

昨日の夜はあんなに怖くて冷たい目をして一匹狼みたいだったのに、
笑うとこんなに楽しそうで、意地悪だけど……優しい

「じゃあ、私は夜凪くんって呼ぶね」

「好きにしろよ、千歳飴」

からかうように言う彼に、胸の奥が少しだけトクンと跳ねる

予鈴のチャイムが鳴り響き、私が「じゃあ、戻るね」と扉へ向かおうとした時、

背後から低い声が降ってきた。

「おい、千歳飴」

振り返ると、彼はもう一度フェンスに背を預け、空を見上げながらぶっきらぼうに言った。



「――明日も、毎日ここに来いよ」