午前零時、夜に恋をした。

「……っ」

あまりの距離の近さに、私は息をすることさえ忘れてしまいそうだった

漣くんの制服の襟元から、冬のつめたい空気と、
ほんの少しだけサイダーの甘い匂いが混ざったような彼特有の香りがして、頭がクラクラする

私の背中を片手でそっと支えるようにしている漣くんの手のひらが、すごく熱い
コツ、コツ、コツ……。

屋上のコンクリートを歩く足音が、私たちの隠れている貯水タンクのすぐ近くまで近づいてきた

「あれー? 誰もいないのかなぁ……。天音、屋上に行った気がしたんだけど……」

――ひまりっ!?

タンクの向こうから聞こえてきたのは、やっぱり私を心配して探しにきてくれた親友の声だった
嘘をついて教室を飛び出した私を、ずっと気にしてくれていたんだ

嬉しいけれど、今だけは本当にお願いだからこっちに来ないで、と心の中で必死に祈る
もしひまりがこの角を曲がったら、学校一の不良の胸にすっぽり収まっている私を見つけることになる

想像しただけで頭がパニックになりそうで、私は思わずぎゅっと目を瞑った
ガタガタと震えそうになる私の肩を、漣くんの手がさらに優しく包み込んで、自分の胸へと引き寄せた

彼の顔が、私の耳元にゆっくりと近づいてくる

「……動くな。心臓の音、ひまりって奴に聞こえるぞ」

漣くんが耳元で、消え入りそうな声でそっと囁いた
彼の熱い吐息がダイレクトに肌に触れて、私の心臓はさらにうるさくドクドクと暴れだす

聞こえるぞって、そんなの漣くんの心臓の音が大きすぎるからじゃん、
と言い返したかったけれど、声なんて出せるはずもなかった

「うーん、やっぱり下かなぁ。予鈴鳴っちゃうし戻ろっと」

ひまりの足音が遠ざかり、バタン、と重い鉄の扉が閉まる音が響いた
完全に静まり返った屋上。大丈夫、バレなかった

そう分かってホッとしたはずなのに、私たちはどちらからともなく
手を離すことができなくて、冬の広い空の下、狭い影の中でじっとお互いを見つめ合っていた