午前零時、夜に恋をした。



私は消え入りそうな声でやっとそれだけ言うと、
真っ赤になった顔を隠すように屋上の扉を飛び出した。

階段を駆け下りる私の耳の奥では、彼の言葉が何度も何度も響いて離れなかった
深夜零時。世界で2人だけが繋がれる、秘密の時間がまたやってくる

屋上の風の寒さなんて完全に忘れてしまうくらい、私の胸は甘くて熱い恋心でいっぱいになっていた

ガラッ、と教室の扉を開けて中に入ると、すぐに目が合った

「――天音っ!!」

案の定、腕を組んだひまりが、私の机の前で仁王立ちして待っていた
その目は完全に、何かを疑っている刑事の目だ

「あ、あはは……ひまり。ただいま……」

「ただいま、じゃないよ! 用事って何!? しかも天音、耳まで赤くなってる! 完全に何かあったでしょ!」

ひまりがジリジリと距離を詰めてくる
私はカバンを机に置いて、慌てて両手で自分の頬を隠した

触ってみると、確かに火傷しそうなくらいに熱い

「ち、違うの! 階段を急いで上り下りしたから、その、暑くて……!」

「冬の廊下を走ったくらいで、そんなに赤くなるわけないじゃん。怪しい……すっごく怪しい……」

ひまりはジト目で私の顔を覗き込んできた
心臓がバクバクいって、嘘がバレそうで冷や汗が出てくる

「まさか天音……。本当に、あの夜凪くんに何かされたんじゃ……」

「えっ!?」

「昨日も呼び出されてたし…。実は天音にカツアゲしてるとか!? もしそうなら私、先生に言うからね!」

「ううん、違うの!! 本当にカツアゲとかじゃないの!」

必死に否定する私を見て、ひまりはふっと目を細めた

「カツアゲじゃないなら……じゃあ、何? 2人で何してたの?」

「それは……」

言えない。毎日屋上で2人きりで会って、サイダー味の飴をもらって、
私のノートを渡して、挙句の果てには「今日の夜も零時に待ってる」なんて言われたなんて

私が口をもごもごさせていると、キーンコーンカーンコーン……と、
午後の授業の始まりを告げるチャイムが絶妙なタイミングで鳴り響いた

「あ、チャイム鳴った! 席戻らなきゃ!」

「あ、ずるい! 逃げたなー天音! 放課後じっくり聞くからね!」

ひまりはぷんぷん怒りながら自分の席へと戻っていった
私は小さく息を吐いて胸をなでおろしたけれど、ふと斜め後ろの席を見ると、
そこには窓の外をぼんやり眺めている夜凪くんの横顔があった

私の視線に気づいたのか、彼がゆっくりとこちらを振り返る
そして、私と目が合った瞬間、彼は口元をニヤッとさせて、
スマホをいじるジェスチャーをしてみせた

『今夜、零時な。忘れるなよ』声には出さない、彼からのひみつのサイン
ひまりの追求よりもずっと、心臓が爆発しそうなくらいの衝撃が、私の胸を激しく揺さぶっていた。