おかえりが聞こえる病室

病室の時計が、午前1時を過ぎた。

302号室には規則正しい時計の針の音だけが静かに響いている。

カーテンの隙間から見える夜景は、もうほとんどの家の明かりが消えていた。

亜美は布団を鼻のあたりまで引き上げ、目だけを出して天井を見つめていた。

眠れない。

体は疲れている。

でも、家じゃない。

知らない天井。

知らない音。

廊下を通る足音ひとつにも、びくっと肩が動いてしまう。

隣ではママが簡易ベッドに腰掛けていた。

「眠れない?」

小さな声で尋ねる。

亜美はゆっくり首を縦に振った。

「……うん。」

「なんか、こわい。」

ママは立ち上がり、ベッドの柵越しに頭を優しく撫でる。

「大丈夫。」

「ママもいるから。」

その言葉は嬉しかった。

でも、胸のざわざわは消えなかった。