おかえりが聞こえる病室

「じゃあ、お熱だけ測らせてもらおうかな。」

「すぐ終わるからね。」

体温計を準備しながら、莉奈はもう一度亜美に笑いかけた。

その笑顔は、どこか太陽みたいだった。

まだ、この時は。

亜美にとって莉奈は、

「夜勤の看護師さん」

それだけの存在だった。

だけど莉奈は、体温計を脇に挟む亜美の小さな手を見て、心の中でそっと思う。

(今日はいっぱい頑張った手だね。)

その言葉は、まだ胸の中だけにしまっておいた。

廊下では夜勤の時計が静かに時を刻み始める。

302号室の長い夜も、これから始まろうとしていた。