おかえりが聞こえる病室

6月の終わり。

雨が降りそうで降らない、蒸し暑い夕方だった。

リビングのソファで、亜美はぬいぐるみを抱えながらテレビを見ていた。

時々、小さく咳が出る。

「コン……コン……。」

キッチンから振り返ったママは、その音に気づいた。

「咳、増えてきた?」

亜美は首をかしげる。

「ちょっとだけ。」

「苦しい?」

「まだへいき。」

その返事を聞きながらも、ママは時計を見た。

午後6時20分。

長年一緒に病気と向き合ってきたからこそ分かる。

“まだ平気”という言葉が、本当に平気な時ばかりではないことを。

「今日は早めに吸入しようか。」

「うん。」

亜美は嫌がらずに頷いた。

吸入器の準備をする音が、静かな部屋に響く。

機械の小さなモーター音。

マスクを顔に当てる。

「ゆっくりね。」

ママの声に合わせて呼吸を整える。

吸入が終わる頃には、咳も少し落ち着いていた。

「楽になった?」

「うん。」

にこっと笑う。

その笑顔を見て、ママも少し安心した。

「今日はこのまま眠れるといいね。」

「うん!」

その時は、本当にそう思っていた。