魔女の弟子のまあまあ楽しい2度目の人生

後日、ダグラスがラチェット家を訪れた。

うう、気まずい・・・

普通、成人の儀の前のダンスの相手は親戚か婚約者が務めるのだ。
周囲の人はもとより、ダグラスも2人が結婚すると思っていたはずだ。

リーナの予想に反し、ダグラスは柔らかな笑顔で挨拶をしてきた。
「フィリー。元気そうだね。」
「に、兄さまも・・・」

「「・・・・・・」」
「「あ、あの・・・」」

沈黙の後、2人の言葉が被った。
「フィリーからどうぞ。」
ダグラスに先を譲られ、リーナは謝罪の言葉を口にした。

「あの、ごめんなさい。ダンスの相手を務めてもらったのに勝手なことをしてしまって。」
「フィリーも助けた人物が国王陛下とは知らなかったんだろう?僕以外の男性から求婚されたことは相談して欲しかったけど、フィリーとしてはラチェット伯の許可がいるという答えは断ったつもりだったんだろうし、謝らなくていいよ。」
「兄さま・・・」
こんな状況になっても優しいダグラスに、リーナは泣きそうになった。

「今日は僕も報告があって来たんだ。アイシャと婚約した。うちに嫁いで来てもらうことになったんだ。」
ダグラスは少しはにかみながら、そう報告した。

リーナは目を見開き、手で口元を押えた。
「兄さま、良かった・・・」

「フィリーのお陰だよ。ジェラルディ公爵は不満そうだったけど、あれだけの観衆の前で発表された国王の婚約が覆されることはないよ。身分を隠して出会うなんてロマンチックな恋だと国中でも話題になっているしね。」
ダグラスの言葉にリーナは苦笑した。

ウィルの発言は嘘ではないが、微妙に本当でもない。
身分を隠して城外にいたウィルを助けたのはリーナ・ケーレスであって、フィリーナ・ラチェットではない。
しかも16年も前の話だ。

「アイシャももう成人の儀を昨年終えているし、公爵は陛下以外の相手を考えていなかったから、彼女に見合うめぼしい男性が残っていなくてね。そこで、陛下と結ばれた君の相手だった僕が浮上したわけだ。アイシャと婚約できるなんて夢のようだよ。フィリー、君のお陰だ。ありがとう。」

ダグラスは本当に心から感謝しているようだった。
リーナの心も軽くなり笑顔になった。
「兄さまが幸せそうで良かった。お互い、幸せになりましょうね。」
「フィリー」

ダグラスはリーナをフワッと抱きしめ、頭のてっぺんに軽くキスを落とした。
「王妃となる君とこうして触れ合うのは、今日で最後だね。僕にとっては君はずっと可愛い妹だったよ。幸せを祈っている。」

最後までダグラスは素敵な紳士だった。

兄さまもお幸せに・・・

ダグラスを見送りながら、リーナは心からそう願ったのだった。