あなたのほくろには、沼りません!


「ん? それはどういう意味?」
 崇人の口から、丁寧な言葉遣いが消えていた。澄花はハンドルを握りながら、背中に冷たいものが流れるのを感じた。
「えっと……」
「とても気になるセリフだったから、きちんと説明してほしいな、高梨さん」
 場を繋ぐために呟いた言葉に被せるように、崇人は澄花を追いつめていく。
 
「えっと……、えっと……」
 言えない。さすがに言えない。
 どんなこともサラリと受け流す崇人が、反省などと口にすると思っていなかったなど。
 そんなことはありえないと、考えたらすぐわかることなのに。
 なぜなら、崇人は営業課のエース。トライ&エラーは、澄花が考えているよりも多く、繰り返してきているはずだ。
 その地位に至るまでに、それなりの努力を積み重ねてきているだろう。それを、容易な言葉で片付けようとした。
 その事実に澄花は、言葉を紡げなかったのだ。

 助手席から送られる崇人の視線が怖かった、というのもあるが。

「えっと……。あっ! 会社! もう会社に着きますから!」
 ごまかすように、澄花はハンドルを切り、会社の近くにある立体駐車場に入った。
 提携している場所に車を停車させると、エンジンを切って、運転席の座席を下げる。
(さっさと逃げ出そう)
 焦りながら澄花がシートベルトを外した瞬間、崇人が動いた。
 澄花とハンドルの間を割って入るように、左手を伸ばし、右手を運転席のヘッド部分に添える。
「まださっきの言い訳、聞いていないよ」
 逃げられない。澄花は背中に滝汗を流しながら、崇人に詫びる。
 
「す、すみません! 私の失言でした。忘れてください!」
「失言? 本心じゃないの?」
 メガネの奥の崇人の瞳は、面白そうに笑っていた。
「どうしても言えない? じゃあ、こうしたら?」
 崇人はおもむろにメガネを外した。