あなたのほくろには、沼りません!

 澄花の性癖を歪めたのは、アニメのキャラクターだ。

 右目の下の泣きぼくろが印象的なそのキャラに、澄花はハマった。
 年上に憧れる年頃でもあった。高校生のそのキャラクターは、今の言葉でいうと「トガッて」いた。
 主人公のライバルの一人であり、冷酷で他人を見下す、ヒール役。一方で、影で努力しているところや、不意に見せる弱った姿が魅力的だった。
 そういう場面では、必ず右の横顔からのカット画面が入るのだ。チャームポイントのほくろと共に。
 
 小学校から高校を卒業するまで、「恋人は、彼!」と公言するほど、がっつりと沼っていた。澄花の黒歴史である。
 大学に進学し、ようやく生身の人間に興味を抱くようになって、自然と二次元の彼からは卒業した。
 しかしタイプの男は、澄花のDNAにしっかりと刻み込まれたのだ。
 自覚した時には、泣きぼくろがないと異性を好きになれない体質になっていた。
 
 たった一つ。目元にほくろがあるだけで、なぜかアンニュイで色気がある雰囲気になる。それに加えて、感情が表に出ないと最高である。
 初恋の彼もそうだったように、どこか影がある印象を与えてくれる。そんな男の沼に、ずっぽりとハマってしまうのだ。
 人間性は二の次。そんなことよりも、ほくろがあるのかどうかが重要だった。
 怪しげな魅力がある男に惹かれる女性は、自分だけではない。
 頑張って特別な関係になっても、言い寄ってくる女性は後を絶たない。
 そこで、相手が澄花に誠実な人間だったら。逆に澄花が、浮気を許すタイプだったら、表面上はうまくいったのかもしれない。
 けれど、澄花は付き合っている男性を、誰かと共有するのは嫌だった。