あなたのほくろには、沼りません!


 そんな澄花の様子を、崇人はどう捉えたのか。
 ハハッとマスクの下でくぐもった笑い声を上げながら、澄花を見つめてくる。
 「な……。まだ、何か!?」
 三つも年次が上の崇人に向かって、きつい言い方になっていることすら、澄花は気づいていない。
 貫くような崇人の視線にさらされて、負けじと応答したら、失礼な物言いになってしまったのだ。
 崇人は警戒している澄花の様子を見て、もう一度笑おうとして。バチが当たったのか、くしゃみを連発する。
 それがまた、苦しそうなのだ。

 「だ、大丈夫ですか!」
 とっさに声が出た。しまったと思ったが、後の祭りである。仕方なく澄花は、ジャケットの上着からポケットティッシュを取り出すと、崇人に差し出した。
 素直に受け取った崇人は、立ち上がって、ドアの方に近づいていく。恐らく鼻を噛みにトイレにでも行くのだろう。
 退出しようとした瞬間、思い出したかのように足を止めた崇人は、澄花を振り返る。
 「高梨さん」
 「は、はい!」
 澄花はガタッと音を立てて立ち上がった。続きの言葉は何なのかと、ドキドキしている澄花に、崇人は淡々と告げた。
 「プレゼン、変わってくれないかな? 俺、今日は喋れそうにないや」

 拍子抜けした。変に緊張していたせいで、どっと疲れが襲ってくる。 
 澄花は、崩れ落ちそうな足に力を入れて頷いた。
 「わかりました」
 「ありがとう。……っくしゅん!」
 大きなくしゃみの音を残して、崇人は部屋を出ていく。
 その瞬間。

 「つ、疲れた……」
 ため息と共に澄花は、椅子にへたりこんだのだった。