あなたのほくろには、沼りません!


 崇人は助手席に座り直して、メガネをかける。まだ澄花の心臓はバクバクと音を立てていたが、ほくろが隠れたことで、少しだけ冷静さを取り戻せた。
「すみません。……でも一つだけ言い訳をさせてください」
「はい、伺いましょう」
 崇人は真面目に返事をする。楽しそうな笑みを滲ませている表情は変わらないが、喋り方は敬語に戻っていた。
 職場の同僚として相応しい言葉遣いである。
 一線を引き直してくれた崇人に、澄花は内心で礼を言い、弁明をする。
 
「く、唇を押しつけてしまいましたが、私、岸本さんのことは、全く好きじゃありませんので」
「へぇー」
 崇人が笑みを深くした。子どもが新しいおもちゃを見つけたような、純粋で邪気のない顔に、澄花はゾワッと背筋が薄ら寒くなる。
「じゃあ、何で?」
 白状するしかない。澄花は、誰にも話したことがない、自分の抗えないこだわりを告白する。

「わ、私、泣きぼくろが、……せ、性癖らしくて」
「性癖? またすごいワード使ってきますね。普通は、フェチとか、異性の好きなポイントって、オブラートに包むのに」
 「ああっ!」
 しまった、その言い方があったか。
 澄花が後悔しても、もう遅い。澄花の弱点を知った崇人は、実に楽しそうだ。
「フェチです! 私のフェチ! そう脳内で自動変換しておいてください! っていうか、忘れて!」
 最後は悲鳴のような声で懇願する澄花に、崇人は無理だよ、と笑った。