音のない世界

優花〜


高校に入学して一週間。

長濱高校は私にとって都合が良かった。

テストの点さえあれば、割と自由。

それだけで十分だった。


朝四時。

新聞配達

家に帰れば松永が寝ている。

音を立てないように朝ご飯を作る。

お皿を洗い、制服に着替える。

長袖のシャツ。

スカートの下には今日もスウェット。

鏡を見る。

昨日殴られた頬は髪で隠れた。

「……よし。」

耳栓をケースから取り出し、耳にはめる。

世界の音が遠くなる。

これでいい。

誰の声も聞こえなくていい。

学校へ着く。

人の多い廊下は嫌いだ。

誰にもぶつからないよう壁際を歩く。

後ろから人が近付く気配。

反射的に体が強張る。

──また殴られる。

そう思った瞬間。

「危ない。」

低い男の声。

耳栓をしていても少しだけ聞こえた。

次の瞬間。

私の目の前に落ちてきた植木鉢。

ガシャン。

土が散らばる。

一歩前に進んでいたら、頭に当たっていた。

私は植木鉢を見る。

そして、後ろに立つ男を見る。

見たことがある顔。

……誰だった。

思い出せない。

男は私を見ていた。

私は何も言わない。

言う必要がない。

そのまま横を通り過ぎる。


後ろで誰かが叫んでいる。

先生だろう。

周りも騒いでいる。

全部どうでもいい。

私は教室へ向かった。