花囲い

 ――次の日、知らない番号からのメッセージは来なかった。それだけで安心してしまう自分がいる。

 勘違いだったのかもしれない。たまたま遠回りを見られていただけかもしれないし、ただの悪戯だったのかもしれない。

 そう思うことにした。そうでもしないと、学校へ行けなくなるから。

 朝のホームルームが始まる前の教室はいつも騒がしい。誰かが宿題を写し、誰かがお菓子を配り、誰かがSNSの話をしている。

 そんな中、私は窓際の席で文庫本を開いていた。

「また読んでる」

 顔を上げると、井𡈽くんが微笑んでいる。

「うん」
「何読んでるの?」

 今読んでいる好きな作家の短編集を見せると、井𡈽くんはにこりと笑って言う。

「ああ、その作家。僕も読むよ」

 そして「次の新刊も楽しみだよね」と続ける。私は、その作家の新刊が来月発売だったことを思い出した。

 誰にも話していない。予約を済ませてあることも。発売日を手帳に書き込んだことも。

「井𡈽くんって結構本読むんだ?」
「そうだね。人並みには」

 はたから見たらなんでもないやりとりのはずなのに、私の手は震えていた。

 恐怖で色付けされた疑念。その小さな棘が刺さったまま抜けずに、ずっと心に留まっている。