学校帰りに駅前で担任に会った時に言われた言葉。
「佐藤、最近落ち着いたな」
担任は安心したように笑った。
「そうですか?」
「ああ」
担任は隣にいる井𡈽くんを見る。
「井𡈽、本当にありがとうな。佐藤を支えてくれて」
「いえ」
私はなにも言わなかった。もう訂正する気力も残っていない。
母が夕食の支度をしながら言った。
「井𡈽くん、本当に優しいわね」
「うん、」
「沙羅が最近笑うようになったって」
「そうだね」
笑っているのではない。表情を動かすことを諦めただけだ。その違いを説明しても、きっと伝わらない。
――年が明けたある日の放課後。昇降口で靴を履き替えていると、井𡈽くんが静かに言った。
「合格したよ、第一志望」
「うん。おめでとう」
私たちは互いの志望校を知らない。かぶってどちらかが落ちたら気まずいからという理由の裏で、進学を機に井𡈽くんから離れられるかもしれないと僅かな希望を抱いていたからだ。
けれどその希望もすぐに打ち砕かれる。
「沙羅さんと同じ大学」
喉が動かなかった。私は親と担任以外の誰にも志望校を話していない。井𡈽くんは続ける。
「安心した。これからも一緒にいられるね」
その言葉で、私の最後の心の支えが崩れ落ちた。井𡈽くんは私の手を取り、手の甲にそっと口付けた。祝福のような呪いだった。



