――夕方。家へ帰ると、母が玄関で待っていた。
「沙羅! どこ行ってたの!」
今にも泣き出しそうな母に、私は押し黙る。
「井𡈽くんが探してくれたのよ! 学校に来てないって聞いて。駅も探して、公園も探して」
母は私の肩を掴んで言った。
「沙羅、ちゃんと井𡈽くんに謝りなさい」
私は笑いそうになった。
その日の夜、部屋にこもってスマホの電源を入れると、通知が四十件以上並んでいた。
母、美咲、担任、クラスメイト。全部、私を心配する内容だった。
そして、一番下には知らない番号が表示されている。
『もう一人でどこかへ行かないで』
その文章を見た瞬間、私は理解した。私は今日、一日中逃げていた。でも、井𡈽くんは一度も走らなかった。
「う、あ」
最初から、私が最後には家へ帰ることを知っていたから。
「ああああぁぁぁ!!」
枕に顔を埋める。疲れているのに眠れるはずがなかった。



