花囲い

 私は自分の名前があまり好きではない。

沙羅(さら)』というその響きは珍しいわけではないけれど、ありふれているわけでもなく。教室で名前を呼ばれれば、振り向くのは私だけ。

 だから、井𡈽くんがその名前を呼ぶたびに、逃げ場がないような気持ちになる。

「おはよう、沙羅さん」

 昇降口で靴を履き替えていると、当たり前のように声をかけられた。

「おはよ」

 最初は気のせいだと思っていた。クラスのみんながいる前では「佐藤(さとう)さん」と呼ぶのに。

 二人きりになると必ず「沙羅さん」になる。

 私は一度も「名前で呼んでいい」と言った覚えはないが、注意するほどのことでもないと思って、そのままにしていた。

 それがいけなかったのかもしれない。