「譲れない、彼女。」

「3年前から、沙和が好きだ」

そう、俺は告白をした。

……。

小学校六年生の頃から…、なんて
さすがに恥ずかしくて言えなかった。

じゃあ、その間、
彼女がいなかったのかと言われたら――

いた。

でも、
長くは続かなかった。

やっぱり、

俺のどこかには、
いつも沙和がいた。

沙和は、
頭が良くて、

運動もできて、

誰とでも笑い合える。

俺には、
憧れの存在だった。

だから、
自信が持てなかった。

自分自身にも。

そして、
沙和に「好き」と伝える勇気さえも。


沙和の返事を、
ドキドキしながら待った。

沙和は、
俺の顔を見てふっと笑う。

「3年前から? 本当?」

少し疑うような顔で
そう聞いてきた。

「私もね。
倫也のこと、好きだったよ」

その一言で、
止まっていた時間が動き出した気がした。

「でもさ」

沙和は、
頬を膨らませながら

「同じクラスになった時も、
委員会が一緒になった時も、
帰り道がたまたま同じになった時も……

なんか素っ気ないし。

嫌われてるのかなって
思ってた」

そして、
少し目をそらしながら、
小さな声で続けた。

「……しまいには、
彼女まで作ってるし」

「い、いや……あれは」

ちょっと色々あって、と。

自分でも何を言っているのか分からない、
苦しい言い訳だった。

沙和は、
そんな俺を見て笑う。

「まぁ、別にいいけど」

その一言に、
少しだけ安心した。

「じゃあ、沙和。
俺と付き合ってくれる?」

「うん」

沙和は、
まっすぐ俺を見て頷いた。

中学校を卒業するまで、
あと一か月。

俺はようやく、
ずっと好きだった沙和に
想いを伝えることができた。

嬉しくて、
たまらなかった。


二人しかいない教室の窓から、
グラウンドを見下ろす。

後輩たちが、
大きな声を出しながら走っていた。

「なんか……懐かしいな」

俺は、
ふと笑った。

「俺さ。
沙和がテニスしてる姿、
好きだったな」

「えっ?」

「いつも楽しそうだったじゃん。
テニスコートって、
野球グラウンドの隣だったろ。

フェンス越しだけど、
時々、沙和の声が聞こえてきてさ。

何気なく見ると、
一生懸命、ボールを追いかけてて。

楽しそうだなって、
いつも思ってた」

沙和は、
少し照れたように笑う。

「私だって……」


「野球部ってさ。
掛け声に合わせて、みんなで走るじゃない。

『いっち、にー、さん、し』って」

沙和は、
懐かしそうに笑った。

「その走ってる姿とか。練習が終わると、
みんな並んで声を出すじゃない。

『甲子園を目指す!』とか。

まだ中学生なのに、本気で熱くてさ」

クスッと笑う。

「でもね。私、あの声を聞くの、
好きだった。」

俺は、
少し驚いて沙和を見る。

「倫也。
いつも右から三番目だったよね。」



初めて、二人で帰る。

少しぎこちない。

……俺だけかもしれないけど。

沙和は、
あまり緊張していないのか、
いつも通り話している。

こういうところ、凄いよな。

しばらく歩いていると、

「ねぇ、倫也」

沙和が、
俺の顔をのぞき込む。

「私のどこが好きだったの?」


沙和は、
こんなふうに
急に切り込んでくるから焦る。

沙和のどこが好きかって?

そんなの、
ありすぎて答えられない。

でも、
一つだけ言うなら──。

「沙和ってさ。
いつも、『大丈夫』って
言ってくれるじゃん」

俺は、
少し照れくさくなりながら笑う。

「俺、何をやるにも自信がなくて。

でも、そういう時、決まって沙和が

『倫也、大丈夫だから』

って言ってくれるんだよ」

「あれ、結構効くんだよな。
不思議と、うまくいく気がするんだ」

「だから……そういうところが、
好きなんだ」

沙和は、歩くのをやめて、

ゆっくり俺を見た。


「そうなんだ」

沙和は、少しだけ怒った?ような

「ふ〜ん。笑顔が可愛いとか、
髪がサラサラしてるとか、
そういうのじゃないんだね」

「えっ?」

慌てて沙和を見る。

「もちろん、沙和は可愛いよ。すっごく」

そう言うと、

沙和は照れたように笑った。

「なんか……私が催促したみたい」

少し恥ずかしそうに笑って、

「でも、ありがとう」

そう言う

沙和が可愛いんだよ。

と、俺は思った。



高校は、お互い別々になった。

俺は男子校。

沙和は共学。

しかも、
頭のいい奴らが集まる高校だ。

俺だって頑張った。

沙和に負けないように。

追い越すまではいかなくても、
せめて隣に並べるくらいにはなりたかった。

だから、
高校が決まってから告白したんだ。

対等な立場で、
沙和と向き合いたかった。

受験日の前日。

廊下ですれ違った時、
沙和に呼び止められた。

「倫也」

振り返ると、沙和が笑っていた。

「明日、試験だよね」

なんで知ってるんだ。

そう思ったけど、

「倫也なら、大丈夫だから」

そう言って笑った。

何の根拠があるんだよ。

そう思った。

でも、
沙和が言うなら、
本当に大丈夫な気がした。

沙和は、
俺なんかと違って、
余裕で志望校に合格していた。

だからこそ、

俺も何としてでも
第一希望の高校に受かりたかった。

俺自身のために。

そして、胸を張って、

「受かったよ」

そう、
沙和に報告したかった。


沙和と付き合ったことは、
あっという間に学校中に広まった。

「倫也、沙和と付き合ってるの?」

「どっちから告白したの?」

そんな質問ばかり。

まぁ、
中学生らしいけど。

見栄を張るなら、

「沙和も俺のことが好きだったんだ」

そう言いたい。

でも、答えは一つ。

「俺から告白した」

そう言うと、

「だよな〜。やっぱり、お前からだよな」

みんな笑う。

まぁ、いい。

沙和が
俺の彼女ってことには、
変わりないんだから。

そんなことを考えていると、

教室のドアが開いた。

「倫也〜。帰ろ」

沙和が、
当たり前みたいに
俺のクラスへ迎えに来た。

本当は、

俺が沙和の教室へ行って、

「沙和、帰るぞ」

なんて言ってみたい。

でも、

こういうところも、
沙和らしい。

だから、

好きなんだ。


俺には、
卒業までに叶えたい
密かな目標がある。

それは、

沙和と
キスをすること。

中学生男子なんだから、

このくらいは
叶えたい。

だからなのか、

帰り道になると、
やけに喉が渇く。

……俺だけ。

笑えるでしょ。

沙和は、

「早く歩いてよ、倫也」

なんて、
いつも通り。

そんな沙和の隣を歩きながら、

俺はタイミングを探していた。

どこかで、
ちょっとくらい

男らしいところ、
見せないとな。