胸の奥が少しだけ熱くなる。
美咲先輩は昔から、私自身も気づいていないところを見つけるのが上手だった。
「実はね。」
少しだけ表情を引き締める。
「今シーズン、私が産休に入る間、チアの現場をまとめてくれる人を探してるの。」
私は思わず瞬きをした。
「もちろん、まずはオーディション。」
「受からなきゃ始まらない話なんだけどね。」
そう言って、美咲先輩は小さく笑う。
「もし、凪が合格したら。」
「その時は、お願いしたいことがあるの。」
「……私にですか?」
「うん。」
迷いのない返事だった。
「最初は別の人も考えた。」
「でも、どうしても違うって思っちゃって。」
美咲先輩は真っすぐ私を見つめる。
「凪なら、きっとチームをまとめられる。」
私は慌てて首を横に振った。
「無理です。」
返事は、自分でも驚くほど早かった。
「私なんかに、人をまとめるなんてできません。」
「競技しかやってこなかったし、バスケのことだって全然知らない。」
「それに……。」
喉の奥が詰まる。
「私は、一度逃げた人間です。」
会社も。
競技チアも。
全部、自分から手放した。
そんな私に、人の前に立つ資格なんてあるんだろうか。
俯いた私へ、美咲先輩は静かに言った。
「凪。」
「あなたは逃げたんじゃない。」
「大好きだったものを、手放さなきゃいけなかっただけ。」
その言葉に、視界が少し滲んだ。


