その言葉が、胸の奥に静かに残った。
競技チアしか知らなかった私には、まだ少しだけ遠い世界の話だった。
「……でも。」
美咲先輩がアイスカフェラテへ口をつける。
「まさか私が、ディレクターになるなんて思ってなかったけどね。」
「ふふっ。」
思わず笑ってしまう。
大学時代、美咲先輩は人をまとめるのが本当に上手だった。
練習中は厳しいのに、練習が終われば誰よりも後輩の話を聞いてくれる。
だからみんな、自然とついていった。
「今思えば、向いてたのかも。」
「絶対向いてます。」
「そう?」
「はい。」
即答すると、美咲先輩は少し照れくさそうに笑った。
少しの沈黙。
テラス席を春風が通り抜ける。
その風に乗せるように、美咲先輩が静かに口を開いた。
「凪。」
「はい。」
「まだ、チアが好き?」
その一言に、息が止まる。
好き。
そんなの、考えるまでもない。
好きだから苦しい。
好きだから諦められない。
でも、その気持ちを口にしてしまったら、涙までこぼれてしまいそうで。
「……好きです。」
やっとの思いで絞り出した声は、自分でも驚くほど震えていた。


