スマートフォンが震える。
画面には、
『美咲先輩』
懐かしい名前だった。
「もしもし。」
『おはよう、凪。』
明るい声に、思わず笑みがこぼれる。
『最近どう?』
「……ぼちぼちです。」
本当は、全然ぼちぼちなんかじゃない。
それでも、そう答えるしかなかった。
少しだけ沈黙が流れる。
そして、美咲が静かに口を開いた。
『ねぇ、凪。』
『まだ、チアを辞められない?』
その一言だけで、胸の奥が熱くなる。
答えなんて決まっていた。
辞められるなら、とっくに辞めている。
『だったら、うちのチームのオーディション受けてみない?』
「……チーム?」
『東京ノースレイヴンズ。』
聞いたことはある。
昔、日本一になったこともあるプロバスケットボールチーム。
最近は低迷が続いていることくらいしか知らない。
「でも私……バスケなんて全然。」
『いいの。』
美咲は優しく笑った。
『バスケが好きじゃなくても。』
『凪は、チアが好きなんでしょ?』
その言葉に、返事はできなかった。
胸の奥で、何かが音を立てる。
もう終わったと思っていた時間が、
少しだけ動き始めた気がした。


