――目の前には、AnBarの黒く重厚な扉。
「………」
それはまるで、地獄へ続く入口のように見えた。
どうしたって竦む足。
取っ手に手を掛けたまま、なかなか動き出せない。
そんな私のすぐ隣ではシドが、軒先の壁に凭(モタ)れて煙草を吹かしている。
「一緒に行くか?」
まるで脅しのような言葉に、首を大きく横に振った。
シドは『表で待っている』と言った。
だけどいつ、気が変わってしまうかわからない。
……早く。早く、行かなきゃ。
重い扉を押し開けた。
横目でチラリと、シドが入ってこないか確かめて。
店内に滑り込み、音を立てないように気を付けながら、そっと内鍵をかけた。


