おにぎりは、千景の好きな食べ物の一つだ。
だけど私はある日、気が付いた。
彼が『好きだ』という食べ物は、どれも彼が食べやすいもの。
おにぎりだって、手でそのまま食べられるから千景にとって楽なんだ。
きっと千景の本当に好きな食べ物は、他にもたくさんあるはず。
だから私はお米が炊き上がる間、おかずをいくつか準備した。
卵焼き、ウインナー、サラダにお味噌汁。
「いい匂い」
「もう出来るよ」
匂いにつられて起きてきた千景。
私が高い戸棚から食器を出そうと踵を上げて手を伸ばすと、「僕が取るよ」と、私の頭上を軽々と越えて先に食器を掴んだ。
「これと……これ?」
「うん。ありがとう」
千景が配膳を手伝ってくれたおかげで、あっという間にダイニングテーブルに食事が並ぶ。
そうして揃って席に着くと、千景は自分の前に置かれた一膳のお箸をじっと睨みつけた。
「………」
お箸は、千景の天敵だ。


