千景はその日、夜遅くに帰ってきた。
「デック」
「あいぃ」
玄関にずっと座り続けたデックは、家に入った千景と入れ違いになって、家の外へ出た。
「ママ、起きてたんだ」
明かりの点いた部屋の奥。
リビングに座って本を読んでいた私に、声がかかる。
「千景、おかえり」
私がそう声をかければ、やっぱり千景はもじもじとして。
「………」
赤らんだ頬を隠すように顔を伏せた。
だけどすぐに隠しきれない喜びが、顔いっぱいに広がる。
「ただいま!」
そう言って、大して距離のないこちらまで駆けてきた。
手前まで近づき、明かりの下に彼が立ってから、初めて気が付く。
「……千景?怪我してる」
千景の腕に、ナイフ傷があった。
深くはなさそうだけれど、まっすぐに走った線には血が浮いて、固まっていた。


