「お風呂から上がったら、まずタオルで拭く!」
「面倒なんだもん」
「あっちこっち濡れてるの!それに、服を着て!」
「えー。こっちのほうが楽なのに」
「今まで誰かに注意されたことないの?」
「ん-、ないかな。むしろ着替える服なんてずっとなかったし」
「………」
彼には時折、影が落ちる。
だけど本人は至って普通の様子で、なんとも思っていないようだった。
気がつけば私はいろいろなことを教えていた。
だって千景は何も知らなかった。
お箸の持ち方や、最低限の食事のマナー。
「いただきます」と「ごちそうさま」。
お風呂から上がったらバスタオルで身体を拭き、服を着ること。
千景は口出しをすればああだこうだ、と言い返しはするけど。
やり方を教えれば素直に真似たし、出来ることが増えれば素直に喜んで見せた。
――その姿はまるで、子供のようだった。


