「本名を教えたってことは。トウジ、私の昔の話をカナコに話した?」
「少しだけ。音信不通だったことの愚痴を聞いてもらった」
「男が愚痴なんて言うんじゃないわよ」
リンコは茶化すように笑って、窓の向こうにある自分の店に視線をやった。
「酷い男よねぇ。自分が生きたいように生きるために、過去を捨てた」
「リンコさん……」
「前まではね。翔だった頃の自分なんて、全部いらないって思ってたの」
「………」
「でも、アンタといるうちに気付いたのよ」
リンコは、まっすぐで温かい瞳で私を見つめた。
「別に、捨てなくてもよかったって」
「………」
「男だった翔も、今のリンコも。どっちも、アタシ」
ふっ、と零れた艶っぽい笑みから、目が離せない。
「だから『SHOW-Me』。アタシは自分の店にあの名前をつけた」
男でも女でも。
リンコは、リンコ。
私が笑みを返したところで、運転席から声が飛ぶ。
「それにしても、安直すぎる名前だけどな」
「うっさいわよ」
「それにお前。今の名前の方がどうかと思うぞ。だって『リンコ』って……」
「やめてよね。もういいから、さっさと車出して」
「あいよ」
嫌がるリンコに、黙って車を発進させるトウジ。
……『リンコ』って名前にも、何か意味があるのかな。


