廊下を突っ切り、エレベーターに乗り込む。
「まったくもう。時間ないっていうのに、ユキちゃんったら」
ボヤくリンコの隣で、私はいつかの寝起きの強制連行を思い出していた。
今は寝起きではないし、かろうじて部屋着。
でも、スマホ以外何も持ってきてない。
リンコとの外出は、いつも急。
……連絡先を交換していることの意味。
マンションを出ると、向かいの路地に一台の白いバンが停まっていた。
リンコは私の手を握ったまま、ツカツカと車に近づく。
スライドドアを開け、後部座席の奥に私を押し込むと、リンコはその隣に座った。
「お待たせ。出して頂戴」
声をかけたリンコの視線を追って、私も前の運転席に目をやった。
「あいよ」
返事と共に、バックミラー越しにその人と目が合う。
「………」
誰だろう。
初めて見る人だ。
オールバックの黒い髪に、スマートな金縁眼鏡。
いかつい雰囲気なのに、どこか洗練された清潔感をまとった大人の男性。


