ユキは慣れた様子で物を踏みつけながら、玄関を上がっていく。
懐かしいな、なんて思いながら一歩中に入れば、前からユキが手を差し出してきた。
「足場悪いから」
「………」
家の中で使われる言葉じゃないんだけどな。
散らかした本人が真顔で言うものだから、笑っていいのかわからない。
私が手を握ったところで、ユキが後ろを睨みつける。
「お前は帰れ。入ってくるな」
「気を使ってくれなくて大丈夫」
「使ってない」
「使えよ。こんな汚い家」
「じゃあ帰れ」
千景は問答無用で家に上がり、廊下を進むと、寝室の戸を勝手に開けた。
「ママ。今日はもう寝よう。移動で疲れただろうから」
ユキと共に寝室に入れば、ベッドの上だけは無事だった。
物が置かれていない。
「ソファでいいですよ」
「ダメに決まってる」
ユキは私をベッドに寝かせ、布団を掛けた。
「じゃあ僕も一緒に寝よ」
後ろからやってくるなり布団に入ろうとした千景を、ユキが「ふざけるなよ、お前」と言って止めた。
ぎゃあぎゃあと騒ぎ出した二人。
たしかにこれは『うるさい』。獏に同意する。
こんなのじゃ寝られない。
そう思っていたけれど。
「………」
千景の言った通り今日は疲れてしまったようで、睡魔はすぐにやってきた。
うとうとと上下しだした瞼。
ぼやける視界の先の二人に。
「ユキさんも千景も。なんだかんだ、仲いいよね」
そう声をかけると、不服そうな顔が二つ、こちらを向いて。
「おやすみ、かぁこ」
「おやすみ、ママ」
ピタリと静まった部屋の中、落ちるように眠りについた。


