それから数日。
私の日々は、変わらなかった。
ユキと千景だって、毎日やってきた。
千景は日に日に『オランダなんか行くな』がうるさくなって。
ユキは何も言わず、いつも通り私の世話を焼いた。
そうやって、日々はあっという間に過ぎていき。
とうとう、オランダ出発日――前日。
はじめに千景がやってきた。
千景はいよいよ切羽詰まったみたいに、まくしたてた。
「まさか本気でオランダに行く気じゃないよね?」
「………」
「ずっと言ってたじゃないか。AnBarに帰りたいって」
「………」
「僕、あの男嫌いだけど。でも、それでもママがいるならAnBarって場所を僕が守るから」
「………」
「ママの大切は、僕も大切。何も怖いことなんてない。だからママ、お願い」
もう何度も何度も、言葉が口をついて出そうになる。
一緒に帰るよって。
でもそのたびに。
「………」
獏が、後ろで睨みを利かせてくる。
その目は『言うなよ』って言ってる。
ずっとこの調子だ。
もう何度も、何度も、言っていいですか?って尋ねたけど、獏は『まだだ』と言う。
『言っていい時は合図をする』って言うから、その合図を待っているけれど。
「………」
一向に、許可が下りない。
だから私は、目の前の千景にも、
「……ごめんね」
としか言えなくて。
千景は、その日。
潤んだ目を隠すように俯いたまま、ラボを後にした。
私は獏に「もういい加減、言わせてください」と言ったけれど。
それでも獏は頑なに『まだだ』と返した。


