「言うなって……帰るって決めたこと?」
「ああ」
「千景とユキさんに?」
「そうだ」
「ええっと。なんで?」
首を傾げる私の前で、獏はもぐもぐとメロンを食べる。
「俺は嫌いだ。粋がったヤツも、男前も」
「意味がわからないんですけど……」
「ああいうのがいるから、世の中が乱れる」
「何が乱れるんですか」
「俺みたいなヤツに女が回ってこない」
「………」
ただのやっかみじゃないか。
「……言うなって、いつまでですか?」
「俺が言っていいって言うまでだ」
そうは言っても。
獏が決めた期日であるオランダ行きの予定日まで、あと数日しかない。
いま言っても、あとで言っても、そんなに変わらない気がする。
「別にいいですけど……」
そう零した私に、獏はニヤリと笑う。
「いいか。俺が『いいって言うまで』絶対に言うなよ」
「は、はあ」
「約束だ」
まるで念押し。
「わ、わかりました……」
「まぁ、面白ぇモン見せてやるから。それは俺からお嬢ちゃんに約束してやる」
そうして私は、獏の悪だくみにまんまと乗ってしまった。


