「誰しもが正しく、上手く生きられるわけじゃねぇ」
「………」
「チカにとっては、あそこは生きる場所なんだろ」
「………」
「苦しかろうが、間違ってようが。アイツは自分でそこを選んでる」
コーヒーの香ばしい香りが、キッチンに広がる。
「『正しい生き方』なんざ、俺にもわかんねぇよ」
「………」
「ただ、せっかく生きてんだ。どこで、どう生きるかは本人の自由だ」
正しい、生き方。
――『どうすれば私は正しく生きられますか?』
獏は、最初からずっとそうだった。
正しさに固執しない。
「獏さん」
「ん?」
「間違ってても、いいんですか?」
「何が」
「自分で選んだものが、正しくなかったら……後悔するじゃないですか」
「そんときゃ間違えたってだけだろ。また選び直せばいい」
「………」
「生きてりゃ、何回でも選び直せる」
……生きていれば。
「……っ、でも!」
喉の奥が詰まって、声が上ずった。
「……でも、じゃあ。死んじゃった人は?」
自分を落ち着かせて、やっと言葉にすると。
ただ獏はコーヒーをすすって、なんてことのない顔つきで言う。
「死んだヤツが何考えてたかって、お前にわかるのか?」
「……わからない。だけど、」
野間くんが、何を考えていたかなんて、私にはわからない。
ただ、事実として。
私と関わった野間くんが、私と関わったせいで、死んでしまった。


