「お前、まだ時間あんの?」
「あと1時間くらいは」
「じゃあ、ちょっと外に出してやれ。今日は天気がいい。森で散歩してこい」
「わかった」
返事をしたユキが出入口に向かおうと足を進めれば、獏の声が後ろから飛んでくる。
「お嬢ちゃん。宿題、覚えてるよな?」
「はい……」
ギクリ、とした。
忘れてなんかない。
だけど、どうしたってこれまでの時間で見つからなかった。
だってユキは、自分から甘えにいかなくたって、こんなにも私を甘やかしてくる。
……これ以上、何を甘えろっていうんだろう。
気付けば、ユキが帰るまであと一時間程しかない。
「かぁこ。背中に乗って」
ユキは私を一度腕から下ろすと、背中を向けて屈んだ。
ラボの出入口は狭いから、横抱きのままじゃ通れなかった。
私は目の前の大きな背中に、そっと手を添えた。
肩まで滑らせるように腕を回し、とん、と身体を預ける。
ユキに負ぶわれて、階段を上がっていく。
――キイ、と扉を開けば、眩しい日光が私を照り付けた。


