しん、と重い沈黙が流れる。
二人の視線が痛くて、俯くことしかできない。
そんな私を見かねたように、獏の声が沈黙を割る。
「――じゃあ。俺がもう一肌脱ごうかね?」
助け船のようなその声に、私は顔を上げた。
「俺は二週間後にオランダに飛ぶ。薬の原料探しの旅だ。お嬢ちゃん、一緒に行くか?」
……オランダ?
私が目を丸めれば、千景は目くじらを立てて獏に噛みついた。
「何言ってんの。面白くないな、その冗談」
「冗談でもなんでもねぇよ。これは超現実的なプラン」
パン、と獏が手を叩く。
「冷静になって考えてみろ?」
「………」
「お前らの話だと……このお嬢ちゃん、ヤバいヤツに狙われてるんだろ?んで、お前らはその憎き敵をやっつけると」
「………」
「俺とお嬢ちゃんがオランダで旅してる間にサクッと倒しとけよ。敵さんもオランダまでは着いてこれねぇだろうし」
獏は「ハハッ」と愉快気に笑う。
「俺らが戻ってきたときに、世界が平和になってたらいいな?」
まるで他人事。
いや、シトウに住んでいない獏からすれば、完全な他人事。
馬鹿にしたとも取れる言い草に、ユキと千景は揃って眉を吊り上げた。
「ふざけるな。遠くに逃がすならお前でなくていい」
「いい加減にしろよ、クソヤクザ」
それでも獏の調子は崩れない。
詰め寄ってくる二人を前に、耳の穴をほじりながら聞き流していた。


