「チカとあの色男」
「………」
「あの阿呆二人を悲しませても。それでも地獄に戻りたいのか?」
……地獄。
リビドーは、地獄のような場所。
たしかにそうだった。
ユキも千景が助けてくれて嬉しかった。
……戻りたくはない。
だけど。
「じゃあ、どうすればいいんですか?」
野間くんが死んだ。
私を助けてくれた彼が。
私が、彼を死なせてしまった。
「どうすれば私は正しく生きられますか?」
わからない。
どうすればいいの。
嘆いた私に、獏のその声はやけに落ち着き払っていた。
「さぁ?」
「………」
「正しいも、正しくねぇも、たかが結果論だからな」
「だったら……」
私の声を、獏が遮る。
「ただ一個、言えることがあるとすれば――誰にも、明日が来る保証なんかどこにもねぇ。これが世の中の『絶対』」
「……絶対?」
「だから、今日のことだけ考えときゃいい」
「今日……」
そんなこと、言われても。
「で?お前はどうしたいんだよ」
……よく、わからない。
難しいって顔をする私に、獏が意地悪そうに口元を緩めた。
「――今。お前は、どうしたい」
獏が、汗で濡れた私のシャツをつまみ、パタパタと風を送ってくる。
ひんやりとした濡れた布が肌に張り付いて、気持ち悪い。
「……着替えたい、です」


