するとそこで、――コンコン、とノックが鳴った。
獏は扉に目をやり「さぁて、どっちの馬鹿かな」と足を進める。
てっきりそのまま扉を開けるのかと思いきや、寸前でこちらを振り返った。
「入れるぞ?」
ぴくり、と指先が反応する。
私は顔を少しだけ伏せて、『はい』と返事をしようと口を開きかける。
すると獏は、
「ダメだ、入ってくんな」
と、扉の外に声をかけた。
次いで、「ちょっと外で待ってろ」と言いつけ、私の元に戻ってくる。
どうしたんだろう。
きっと扉の前で待ってるのは、ユキか千景。
これまで何度もここに来てくれた。
意識はまばらで、どんな話をしたかは覚えてなくても、介抱してくれたことは覚えてる。
「お前、意識はもうだいぶ立ち上がってきてんな?」
「………」
「今『誰か入ってくる』って思った瞬間、何が頭に浮かんだ?」
何が……浮かんだんだろう。
「……わかりません」
言葉にできなくて、ただ俯く。
「嫌なのか?」
そんなわけない。
ユキも千景も、とても優しい。
「……会いたい、です」
「じゃあ、なんであんな顔した?」
「あんな顔?」
「わかんねぇ?」
「……はい」
「じゃあ、いい」
獏が扉を開けると、入ってきたのはユキだった。


