「なんで帰りたい?」
「ひどい目に、遭う……から」
「誰が。お前がか?」
「………」
「どうして帰らなきゃならない」
「死んじゃう」
「だから、誰が」
「私があそこを出ると。私が誰かと関わると」
「………」
「みんな、死んじゃう」
そう言って、カナコは「野間くん……」と力なく床に伏せた。
獏は「なるほどな」と言って、カナコの腕を捕まえた。
「ベッドに戻れ」
首を横に振るカナコを、獏は問答無用で抱き上げる。
そのままベッドに寝かせると、尚も起き上がろうとする頭を、枕に押し付けた。
「寝ろ」
「放して」
「寝・ろ」
「なんで……あなたは、だれ」
「残念だったな?お前は俺の薬を食っちまった。おいそれと死なせてやんねぇぞ。ボケが」
カナコの身体は、リビドーの密室から救い出された。
だが――その心はまだ、あの暗い部屋に閉じ込められたままだった。


