――その晩。
千景は一度家に帰り、シャワーを浴びた。
……一人ずつしかママのいる部屋に入れない。
ということは、あの男が入るより前にラボに入らないといけない。
つまり、早い者勝ちだ。
「野宿上等」
千景は深夜。
テントを片手に、森へと入った。
入口前にテントを広げ、設営の準備をする。
「……ん?」
すると、近くから何か音がする。
こんな森の中で、獣か?
音の方に目をやれば――……
「何の用だ」
地面にペグを――カン、カン、と打ち付けているユキの姿があった。
ユキは千景のものより、ひと回り大きめのテントを設営している。
「………」
千景は無言で歩み寄ると、打ち込まれたペグをスッと引っこ抜いた。
「……おい、喧嘩売ってるのか」
「ああ。売ってる。ウザい、お前」
そうして、しんと静まり返った夜の森で、乱闘が始まった。
――翌日の朝。
獏のモーニングルーティン。
コーヒー片手に、表に出ると。
「………」
「………」
設営途中で崩れた、二つのテント。
その傍らには、ユキと千景が転がっていた。
獏は顔をげっそりとさせ、
「……キモ」
とだけ言って、扉を閉めた。


