「――超大作だ。どうだい?」
やがて背中一面に出来上がった絵。
それは、とても壮観だった。
「最後の最後まで、残酷な絵だ」
「大満足っす」
「ちなみに」
「はい?」
彫ったばかりの背中に視線を向けながら、彫師が尋ねる。
「この背中……” ガラスの義眼 “。内側から割れて、ガラスの破片が飛び散ってる」
「はい」
「この絵には、どういう意味があるの?」
僕はじんじんと熱い背中の痛みを感じながら、目を伏せた。
「ガラスの義眼は――特別な力を持たない、傍観者」
「………」
「ただ、視ているだけの眼だったんですよ」
「ふむ」
「なのに最後になって、余計な自我を出した」
「それで割れた?」
「はい、自分で割り砕いた。哀れな男です」
「ガラスの破片には、龍が映ってる。これは……腕の龍と同じ?」
「そうっす。最後の最後まで、ガラスの義眼が映し続けたものです」
いい絵を描けた。
僕にはもったいないくらいだ。
そっとシャツを着て、立ち上がる。
会計を済ませ、店を出ようとすれば、彫師は静かな声で僕の足を止めた。
「野間くん。背中は大きなキャンバスだからね」
「……なんすか?」
「スペース、ちょっと余ってる。絵に続きがあれば、またいつでも連絡ちょうだいよ」
「………」
「いくらでも、彫足すからさ」
僕は呆れた。
付き合いも長くなると、余計なことをされてしまう。
「やけに全体が小さく収まったなーと思ってたんすよ。ったく」
一言文句を言ってから、店を出た。
時間を見れば、ちょうど約束の時間だ。
僕はその足で、待ち合わせ場所へと向かう。


