カナコさんの目の瞬きが多くなってきた。
「カナコさん。今から言うことを覚えておけますか?」
「なに……?」
僕は茶色い紙袋を、カナコさんに見せた。
「これ、薬です」
「うん」
「このベッドの下に隠しますから、メモの通りに薬を飲んでください」
「……え?」
地下の売人から預かった薬を、カナコさんに渡す。
「どう……して?薬は、野間くんが」
「僕はこれから野暮用がありまして」
「………」
「しばらく、ここには来れそうにないので」
「……帰って……こない、の?」
カナコさんは眠気に上下する瞼をごしごしと擦った。
「擦ると腫れちゃうっすよ」
僕はカナコさんの肩を押し、そっとベッドに寝かせる。
「眠ってください」
「いや……いや、野間くん……っ」
「………」
「眠りたく、ない……っ。話……を」
『行かないで』と僕に向かってすがるように伸ばされた、細い手首をそっと握った。
話……か。
カナコさんとは、あの扉越しにたくさん会話をしたな。
「カナコさん」
「……野間くん、」
「外は、だんだん暖かくなってきました」
「きい……て」
「もうすぐ、春が来ます」
「のまく……」
「少し眠ればきっと。カナコさんも会いたい人に会えますよ」
「………」
「………」
「………」
「……僕は賭けます。あなたが生きたいと願った、その先に」
眠るカナコさんの目の横に、握っていた手をそっと返した。
――さて。
大仕事の前に、僕にはまだやることがある。


