扉の先に居たカナコさんは、酷い有様だった。
何度も掻きむしったのか、ボサボサとまとまらない髪と、ひどく腫れた目。
何より。
腕にはいくつかの注射痕があった。
「………」
――紫藤さんは、一線を越えてしまっていた。
「カナコさん……」
「野間くん……わたしっ」
「大丈夫……大丈夫です。地下の売人から預かってます」
地下の売人はまるで予感していたかのようだった。
彼女の状態ごとに細かく用意されていたものの中で、これまで一度も使った事がない薬を手に取る。
「よく、眠れるそうです」
カナコさんは薬を口に放り込み、水で流し込んだ。
手に水の入ったペットボトルを握りしめながら、カナコさんの手の震えが一瞬止まる。
「あ……野間、くん」
「なんすか?」
「どうして……わたし、忘れ……」
床に座り込み、動揺するカナコさんに、僕は「ベッドに行きましょう」と促した。
カナコさんは激しく首を横に振る。
「バレたの……!」
「………」
「シドが、水が変だって」
「………」
「私も、変だって……っそれで――」
「大丈夫っすよ。何も問題はありません」
強張っていたカナコさんの身体から、徐々に力が抜けていく。
僕は彼女の腰を支え、ベッドに誘導した。
カナコさんは戸惑いながら、おぼつかない足で進み。
やがてベッドに腰を落とす。


