瑞生さんは一度瞳を伏せた。
しばらくの沈黙のあと、僕をまっすぐに見つめる。
「俺は、死ねない」
……なんだ、それ。
ふざけるな。
「覚悟のないヤツに、紫藤さんを圧倒できるわけがない」
「そうか。でも、死ぬことも殺すことも。もう俺にはできない」
死ぬ覚悟のないヤツには無理。
かといって。
紫藤さんを前にすれば、死ぬ覚悟を持ったヤツにも無理。
もう、ない。
道なんて。
肩を落とした僕の耳に、瑞生さんの声が届く。
静かなのに、いやに温度を持っていた。
「アイツは……」
「………」
「俺の店や仲間を守るために、地獄にだって飛び込んでいく」
「………」
「目の前で、この街で。もう、何かを失うことが嫌なんだろう」
なぜだか、眼を逸らせない。
そう語る瑞生さんの目に、カナコさんの姿が映っている気がした。
「だから、俺は決めた」
「……何を、」
「俺は――紫藤の造った、この世界を壊す」
その瞬間。
ざわめいていた僕の胸の中が、不思議なくらい静かになった。


