カナコさんの部屋に入るようになって。
僕はきっと、触れてはいけないものに触れてしまっていた。
それは、彼女の意志。
僕はもう、ずっと見ていられなかった。
誰か彼女を助けてあげて欲しい。
「だけどカナコさん、紫藤さんのことも見捨てないんです」
「………」
「恨まないんです。憎まないんです。ただ、ずっと。小さな部屋で。……たった一人で、自分自身と闘っています」
それでも、紫藤さんを見捨てないでほしい。
あんな状況のカナコさんを前にしてさえ。
僕はこんな都合のいい願いを、抱いてしまっていた。
「あなたは、カナコさんを救えますか?」
瑞生さんは目を見開いたまま、動かない。
呼吸すら忘れたようなその人に、僕は尋ねた。
「カナコさんをシトウから奪うということは、紫藤さんを敵に回すということ」
「………」
「それは、死ぬ覚悟だ」
「………」
「覚悟は、ありますか」


