「野間くん」
「なんすか?」
「今って、何月?」
「もう3月になりますね」
失われていた時間の感覚と、外の世界を思い出していく。
「野間くん」
「なんすか?」
「外って、もう暖かい?」
「まだ全然冷えるっすね」
意識が戻るにつれて、外の景色に興味を示し始める。
「野間くん」
「なんすか?」
「今日もありがとう」
「……いえ」
それでも、カナコさんは絶対に言わなかった。
外に出たい、とも。
外に出して、とも。
当然、カナコさんは僕がここの鍵を持っていることを知っている。
自分を苦しめる紫藤さんから、逃げたい。
そう願っても、何もおかしくない状況のはずなのに。
カナコさんは、ただ。
僕を来るのを黙って待ち、帰る時は心細そうに見送った。
ましてカナコさんは、紫藤さんの前では必死にぼんやりしているフリをしているようだった。
きっと僕が黙って出入りしていることがバレないように。


